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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)1763号 判決 1963年11月05日

原告 並木伝三

被告 東京都

当事者参加人 国

国代理人 岩佐善己 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

参加人と原告との間で別紙目録記載の土地が参加人の所有に属することを確認する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

事実

原告は「別紙目録記載の土地が原告の所有に属することを確認する。被告は右土地を、その地上に舗装設置されたアスファルト及び側溝を撤去して、原状に回復し、かつ原告に対し金十万円の支払をせよ。参加人の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。」と判決を求め、その請求原因として、被告の抗弁及び参加についての答弁として次のように述べた。

「一、原告の先代文吉は訴外中村六三郎の所有していた本件土地の所有権を大正十五年五月十二日設定された抵当権の実行に基く競落(本件(一)(二)(四)の土地)または売買(本件(三)の土地)により取得し、昭和八年九月二十六日右競落について、昭和十年五月十五日右売買についてそれぞれその所有権取得登記を了したが、原告は昭和二十一年十二月二十四日文吉の家督相続をした。

二、従つて本件土地は原告の所有であるのに、被告は本件土地にアスファルトの舗装工事及び側溝工事を施工して原告のこれに対する所有権の行使を妨害している上に、右工事の際、本件土地の周囲にある原告所有の土地(五百五十四番の一ないし五、五百五十五番の四等)に原動機付ローラー、トラツク等を乗り入れてこれを踏み荒し、その地上に砂利や砂を堆積させ、その上その地上にあつた直径一尺位の檜の立木を切り倒して持去つてしまつた。原告は被告の右行為により右土地の整地費用及び右檜の価格合計五万円の損害を受けると共に、現に新座町の町会議員その他の公職にあるのに、被告の右行為により附近の人人から、原告が私道と偽つて公道たる本件土地を侵奪していたかのように誤解され、名誉を著しくき損され、大きな精神上の損害を受けた。よつて、アスファルト、側溝撤去、本件土地の原状回復及び前記物的損害五万円、精神上の損害として五万円、合計十万円の支払を求めるため、本訴に及ぶ。

三、参加人及び被告主張事実中停車場開設の点は認めるが、その余の事実は否認する。本件土地は文吉が私道としたものであつて、同人及び原告がその所有土地、家屋の賃借人の通路として占有使用し、その公課も滞りなく支払つているものであり、参加人ら主張の路線は本件土地に平行する他の道路である。仮に、本件土地に路線の認定がされたとしても、本件土地には前記のような登記された抵当権が設定されていたのであるから、該路線の認定は無効であり、参加入が所有の意思を有するについては過失がある。」

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のように述べた。「原告主張の一の事実は認める。二の事実中舗装工事、側溝工事施工の点は認めるが、本件土地が原告の所有であること、原告主張のような物的損害を与えたことは否認する。その余は知らない。本件土地は参加人主張のように取得時効完成により参加人の所有に帰したものであるから、原告の請求は理由がない。仮にそうでないとしても、本件土地は府道としての路線の認定、供用開始がされた以上、私権の行使は制限されるのであるから、少なくとも、原状回復の請求は失当である。」

参加指定代理人は主文第二項同旨の判決を求め、その請求原因として次のように述べた。

「一、本件土地は、大正十三年武蔵野線(現在西武池袋線)の清瀬停車場が設けられた際、同停車場から上清戸に至る私道の一部に供されたが、昭和三年三月十三日その所有者であつた中村六三郎から東京府知事を通じて参加人に対し道路敷として寄附され、同年四月七日付東京府告示第二六四号で本件土地について路線番号第二六八号、路線名清瀬停車場上清戸として府道の路線認定がされると同時に、同日付東京府告示第二六五号で府道の供用が開始され、以来昭和二十七年十二月五日以降は道路法施行法第三条により都道として、被告が占有管理しできている。

二、本件土地は、参加人が所有権取得登記をしないでいる間に、原告主張のように原告の先代文吉の所有に帰し、その所有権取得登記がされ、原告が同人の家督相続をしたが、参加人は供用開始告示以来継続して本件土地を道路敷として所有の意思で善意無過失平穏公然に占有管理してきたから、右告示の日から十年を経過した昭和十三年四月八日本件土地の所有権を時効取得したものである。仮に時効期間の進行が文吉の所有権取得登記の日から始まるとしても、本件(三)の土地については昭和二十年五月十六日、その余の土地については昭和十八年九月二十七日それぞれ取得時効が完成したことになるから、本件土地の所有権の確認を求めるため参加に及ぶ。」

証拠として原告は甲第一号証の一ないし四、第二号証の一、二、(一は本件土地(一)(三)の、二は(二)(三)の写真でいずれも昭和三十七年六月撮影)第三号証の一ないし四、第四、五号の各一、二、第六号証の一、二(一は本件土地附近にある、五百五十四番の三の土地と五百五十三番の五の土地とにはさまれた公道上の建物の、二は同じく五百五十四番の一の土地と五百五十三番の二の土地とにはさまれた公道にまたがつて建てられた建物の写真で、いずれも昭和三十七年八月ごろ撮影)、第七、八号証の各一、二を提出し、原告本人尋問の結果を採用し、乙第一号証の成立を認め、その余の乙号証の成立については不知をもつて答え、被告指定代理人は乙第一号証、第二号証の一、二、三を提出し、証人村野庄司、竹本源次郎、安藤鎌吉、佐久間義勝の各証言を援用し、「甲第六号証の一、二が原告主張のような写真であることは知らない。同第二号証の一、二が原告主張のような写真であること、その余の甲号各証の成立は認める」と述べ、参加指定代理人は甲号各証について被告と同様の認否をした。

理由

原告主張の一の事実は当事者間に争なく成立に争のない乙第一号証、証人竹本源次郎の証言、同証言により成立を認める同第二号証の一、二、三、証人村野庄司、佐久間義勝の各証言によれば、参加人主張の一の事実及び参加人が本件土地を、府道としての供用開始以来今日に至るまで、自分の所有に属するものとして法定の管理者に、砂利を敷いて補修させたりして占有管理させ、公共の用に供してきたことを認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果は信用し難く、他に右認定をくつかえして原告主張事実を認めるに足る証拠はない。右事実によれば、本件土地は寄附当時中村六三郎の所有に属していたのであるから、参加人が寄附により本件土地の所有を取得したものと信じてその占有を開始することは当然で、これについて過失がなかつたことは明白というべく、原告は抵当権が設定されていたから、参加人に過失があつた旨主張するけれども、抵当権が設定されていても、所有権を取得することには支障はないのであるから、寄附当時該抵当権が実行される虞のあつたことの認められない本件においては、抵当権の存在は無過失の認定の妨げないものと解するのが相当である。従つて、参加者は、寄附による本件土地の所有権取得を文吉に対抗し得なくなつた結果、供用開始の日から十年経過した昭和十三年四月八日本件土地の所有権を時効取得したものと解するのが相当である。

次に原告は、被告が本件土地の道路工事により原告に物的損害を与えた旨主張するけれども、この点に関する原告本人尋問の結果は、証人安藤鎌吉の証言と対比して信用し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。

よつて原告の請求は理由がないからこれを棄却し、参加人の請求は理由があるからこれを認否し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 田嶋重徳)

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